町の物語り
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国分寺物語
『町の物語り』vol.03「平岡ホーム」
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数多くの町が集まって成り立っている国分寺市。
そこで活躍する人たちは、
町を、国分寺という大きな歯車を支える大切なネジひとつとなっている。
東元町商店街の入り口を飾る不動橋。
そこを中心に東元町を引っ張るのが、
事務所である平岡ホームを不動橋の目の前にかまえる
一級建築士・平岡実さんだ。
普段表に立つことはないけれど、
その人がいなければはじまらない大切な存在。
たとえば、舞台なら黒子だろうか。
大切な存在。この物語はそんな縁の下の力持ちのお話。
国分寺物語
『町の物語り』vol.03「平岡ホーム」
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今回の取材でお話をうかがったのは
東元町商店会長である平岡さんだ。
平岡さんとの出会いは少し不思議なものだった。
国分寺南口を出て、坂を下りたところにある
「dream pocket(ドリームポケット)~お教室のあるカフェ~」。
名前にひかれて入ったそのお店が、
私と平岡さんが出会うきっかけとなった。
dream pocketに入り、
店主である鶴田さんの話を聴くにつれて活動に興味を持った私は、
国分寺物語の活動のことを話してみた。
「国分寺の地域活性化の活動をしているんですけど、
取材させていただけませんか?」
すると鶴田さんは、
たまたま来ていた女性のお客さんを指さし、
「この人がいいよ!」と紹介してくれた。
その人が、平岡さんの奥さんだった。
奥さんから、旦那さんが平岡ホームという事務所を
ドリームポケットの隣にかまえており、
建築会社をやるのと同時に、
東元町の商店会長も務めていると聞いた。
後日、平岡実さんにつないでもらい、直接話を聞けることになった。
〝国分寺の地域活性化〟。
このワードから、縁が縁を呼んだこの出会い。
どんなお話が聞けるのか、胸を躍らせながらその日を待った。
国分寺物語
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当日は、ドリームポケットで平岡さんを待った。
扉を開けて店内に入ると、鶴田さんが迎えてくれ、
地域の商店街にある特有の温かさが伝わって来た。
しばらくして平岡さんが店内に入ってくると、
その物腰柔らかい雰囲気に、店内が優しい空気に包まれた。
平岡さんは、これまでずっと建築業一筋でやってきた。
国分寺で平岡ホームをやるようになったのは平成元年からだそうだ。
「もともと板橋の方にいたんだ。
その頃は会社にしていなかったんだけど、
独立したいと思っていた時にちょうど知人から勧められて、
ここに来たんだ。」
私はずっと気になっていたことを聞いた。
それは、平岡さんの名刺のことだ。
平岡さんの名刺にはお鷹の道がプリントしてあり、
その下に名前が書いてある。
国分寺ならではの名刺っておもしろい。
「これはね、市役所でやってくれるんだよ。ねえママ?」
そういうと平岡さんは鶴田さんを呼んで、
鶴田さんの名刺も見せてくれた。
そこにも国分寺の写真がプリントしてある。
これは国分寺市役所の経済科にて
100枚500円で買うことができるらしい。
名刺のほかにも国分寺の名所が描かれた
テレホンカードやネックレスも販売している。
「あんま知られてないから、知る人ぞ知る名刺かな」
もっとみんな使えばいいのに。
と続ける平岡さんからは、国分寺への期待と想いを感じた。
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商店会長の仕事では、どんなことをしてきたんだろう。
平岡さんは、たくさんの写真を持ってきてくれた。
商店会長として今までやってきたイベントの写真だった。
「ことの始まりは2011年3月の震災だった。
震災の影響でここもお祭りをやめちゃったんだよね。
だからなんとかしたくて。」
平岡さんは、たまたま仕事で
茨城県の鉾田に行ったときに農協の人に出会った。
被災者支援をやっていると聞いて、自分たちの状況について話をしたら、
農協の人たちがメロンをくれたという。
そこで、国分寺にも被災者の方がたくさん来ているから、
その人たちに向けて「東日本、元気を出せ!」
という意味を込めたイベントを開こうと思いたち、
メロンを売り出したのが始まりだ。
「最初は大雨が降っちゃって、テントを張ったりして大変だったな」
しかし、それで諦めずに次の回には大道芸の人を呼んで、
イベントに仕立てていった。
鉾田の農協さんの人たちとはそれがきっかけで交流が続き、
いまも年に1度メロンを販売しに来てくれている。
「これも大切な縁だな。」
東京と茨城。
小さなきっかけで人と人のつながりができた。
震災で大変な思いをしている人たちをなんとかしたい
という平岡さんのやさしくも強いぬくもりが伝わってきた。
国分寺物語
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平岡さんにとっては出身でもなく、育った街でもない国分寺。
その中で、平岡さんは商店会長としてまちを盛り上げようと頑張っている。
なにが平岡さんをここまで動かすんだろう。
「やっぱり、好きだからかな」
少し照れながら答える平岡さん。
「いっぱいやっているわけではないけど、今までやってこなかったから、
ジャズをやったりパフォーマーを呼んだりすることでみんなが笑顔になるんだ。」
やっていくうちに、「お店の宣伝になるから」
といってほかの町内からも人が集まるようになってきた。
やれることは広く大きくなっていく。
「お祭りが好きなんだよね」
イベントをやるにも、ただネットで探した人を呼んでいるわけではない。
気になる人を見つけたら、何度もその人の実際の公演を見に行く。
そのために国分寺を飛び出して、吉祥寺や東京駅まで行くこともある。
国分寺の独特な雰囲気に合う人へお願いをする。
「つながりはどんどん増えるけど、
古いつながりと新しいつながりの両方を大事にしていきたいと思っているんだ」
私たち国分寺物語の活動も、ご縁とつながりで成り立っている。
平岡さんの目指しているところと私たちの活動に同じものを感じた。
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「ここは恵まれてるんだよね」
集まる商店街の数は17に上る。
お祭りというとイベント会場に困ることもあるが、
ここではパチンコ屋さんの大きな駐車場がイベント会場として借りられる。
「でも、運は悪くてね。いつも天気が悪くて雨になっちゃうんだ。
それでもみんな来てくれるから、ね?」
そういって平岡さんは、
ドリームポケットの鶴田さんと話しに来ていた常連さんに声をかけた。
近隣に住んでいるという。
親しげに話す姿を見ていると、
ここに住む人は皆この街が好きなんだという気持ちが伝わってくる。
常連さんが教えてくれる。
「平岡さんは凄い人なんだよ。
それまでは東元町商店街はあきらめムードが漂っていたんだ。
もともと130店舗くらいあったのに、今は40店舗ほど。
みんなやめていっちゃう。
商売が根付かないところだって言われていたんだ。
それをここまでもってきたのは平岡さんの力なんだよ。
平岡さんみたいな人が自分の商売そっちのけで、イベントの開催とか、
地域のことを一生懸命やってくれているからここまでこられた。
今この街があるのは彼の力が大きいんだ。」
照れて謙遜する平岡さん。
そうだったんだ。
平岡さんが街を変えてきたんだ。
あれ?そもそも平岡さんはなぜ商店会長をしているのだろう。
「やっぱり、元気をだしてほしかったんだよね。」
商店街の数がどんどん減っているなかで、
自分ができることはないのか、平岡さんは探した。
まずは手の届くところから始めた。
事務所の正面にある不動橋。
橋の下にはコイが泳いでおり、今はその橋をさまざまな国の国旗が鮮やかに飾る。
初めはこどもの日に近所で買ってきた
小さなこいのぼりを飾ることから始めたそうだ。
しばらくすると、大きなこいのぼりをもったご近所さんが
「もううちでは使わないから」と言って寄付をしてくれた。
イベントがあれば不動橋にパフォーマーを呼んだり、
春にはきれいな桜をライトアップしたり、
国旗をかざって華やかに演出したりと、様々なことをしてきた。
一見、小さなことのように思えるこの活動。
これまでやってきて、なにか変ったんだろうか。
不動橋は、東元町商店街の入り口みたいな存在。
だけどここは外灯も少なく、夜になると寂しい様相を見せていた。
今、平岡さんの思い付きによってイルミネーションが飾られている。
平岡さんはこの取材の中で、
何度も何度も「元気を出せ」という言葉を使っていた。
「不動橋元気を出せ、商店街元気を出せ、東日本元気を出せ」
平岡さんの「街を元気にしたい」という思いが実ってか、
いま、不動橋は一段と明るくなっている。
何気ないことのように思えるけれど、
きっとそういう取り組みが国分寺の街を活気づける。
(この物語りの取材は2014年2月に行われたものです)